山形で二年に一度開催される「山形国際ドキュメンタリー映画祭」へ。3泊4日で9作品を鑑賞(予定は2泊3日でしたが台風で新幹線運休で帰れず)、特に印象に残った作品を紹介します。
『トランスニストラ』
Transnistra
スウェーデン、デンマーク、ベルギー/2019/96分
監督:アンナ・イボーン Anna Eborn
16mmフィルムで記録される青春ドキュメンタリー、舞台は東欧の小国トランスニストリア。オープニングで登場人物ひとりひとり映し出され、赤色のヘルベチカ・フォントで名前が表示される。この時点でぐっと心を掴まれた。
17歳の少女タニアと5人の少年たちの恋のさやあてが、のどかで殺風景な湖、森、そして廃墟で展開する。登場人物たちの家では家畜を飼い、飲むワインは自家製、キッチンはDIYで増設されたとおぼしき簡素なもの。一瞬ロシアの夏の家”ダーチャ”なのかな?と思いきや、そうではなかった。丁寧な暮らしとは違う、経済不安が漂う。とはいえみんなスマホを所持していて、セルフィーするし、聴く音楽といえばヒップホップやエレクトロ。
主人公のタニアは、目元涼しい少々ぽっちゃりめの少女。シーンによっては美少女にみえたり、そうでもなかったり。前半の夏はほぼノーメーク、けれど外国への出稼ぎが近づいた冬にはメイクをするようになって急激に大人びてくる。”Transnistra”のフェイスブックで見かけた2019年9月現在のタニアは、ロングのブロンドヘアにしっかりメイクでさらに大人に。若者の成長の早さに感心しつつ切なくもなる。
エンディングに流れる少し調子っぱずれのラップは、おそらくこの曲。数日間、脳内ループした。
▼トランスニストリアはこのへん。モルドバの東側。
https://www.yidff.jp/2019/ic/19ic13.html
https://www.imdb.com/title/tt9575000/
https://www.facebook.com/transnistrafilm/
http://momentofilm.se/films/transnistra/
『光に生きる ― ロビー・ミューラー』
Living the Light–Robby Müller
オランダ/2018/86分
監督:クレア・パイマン Claire Pijman
「マスター・オブ・ライト」の異名で知られ、映画史にその名を刻む撮影監督ロビー・ミューラーの生涯と仕事を追うドキュメンタリー。『都会のアリス』『ダウン・バイ・ロー』『パリ、テキサス』『奇跡の海』などの撮影秘話、そしてプライヴェートなビデオやポラロイド、豊富な映像資料や証言で蘇るミューラーの世界。あまりに美しい映画体験。
https://www.yidff.jp/2019/ic/19ic07.html
https://www.imdb.com/title/tt8842066/
『死霊魂』
Dead Souls
フランス、スイス/2018/495分
監督:王兵(ワン・ビン) Wang Bing
ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)&市民賞をW受賞した、王兵(ワン・ビン)監督作『死霊魂』。上映時間は圧倒の495分(ただし3部に分かれている)。中国共産党の反右派闘争で粛清されゴビ砂漠の再教育収容所に送られ生き残った人々による証言集。構成はとてもミニマムで、静かな室内で(たいていインタビュー相手の自宅)ひとりにつき20分ほど淡々と当時を語る。ただその内容があまりにあまりに過酷で壮絶なのである。
https://www.yidff.jp/2019/ic/19ic04.html
https://www.imdb.com/title/tt8296608/
インターナショナル・コンペティション
審査員:オサーマ・モハンメド(審査員長)、ホン・ヒョンスク、サビーヌ・ランスラン、デボラ・ストラトマン、諏訪敦彦
ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)
『死霊魂』監督:王兵(ワン・ビン)
山形市長賞(最優秀賞)
『十字架』監督:テレサ・アレドンド、カルロス・バスケス・メンデス
優秀賞
『ミッドナイト・トラベラー』監督:ハサン・ファジリ
『これは君の闘争だ』監督:エリザ・カパイ
審査員特別賞
『インディアナ州モンロヴィア』監督:フレデリック・ワイズマン
アジア千波万波
審査員:楊荔鈉(ヤン・リーナー)、江利川憲
小川紳介賞
『消された存在、__立ち上る不在』監督:ガッサーン・ハルワーニ
奨励賞
『ハルコ村』監督:サミ・メルメール、ヒンドゥ・ベンシュクロン
『エクソダス』監督:バフマン・キアロスタミ
市民賞
『死霊魂』監督:王兵(ワン・ビン)
日本映画監督協会賞
『気高く、我が道を』監督:アラシュ・エスハギ