マルコム、アリ、ジム・ブラウン、そしてサム・クック『あの夜、マイアミで』

レジェントたちが過ごした、架空の、一夜。

舞台は1964年アメリカ、22歳のカシアス・クレイ(=モハメド・アリ)がヘビー級世界チャンピオンに輝いた夜、カシアスを祝福すべくマイアミに集まった友人は、黒人解放運動の指導者マルコムX、ソウルシンガーのサム・クック、NFLスター選手ジム・ブラウン。それぞれの分野でトップに立ち、後世に名を残すことになる選ばれし人々。祝杯はグラマラスな場所で盛大に、と思いきや、マルコムが指定したのは簡素なモーテル。マルコムにしてやられた、という感じだが、割とあっさり受け入れ、時に楽しく、時に激しい議論を繰り広げる、奇妙で特別な一夜に。

one night in miami

彼らが友人同士であったこと事実だが、語り合った内容は映画の「創作」(もとは舞台)。しかし4人のパーソナリティを十分に反映した演出、演技、セリフは痺れるほど真実味があって、まるで役者の肉体を借りて生き返ったよう(ジム・ブラウンはご存命だけれど)。歴史的人物の彼らが、とても自然で人間らしくて、それゆえ彼らの苦しみ(大きな成功を手にしても黒人差別を受け続ける、理想に向かって突き進むことが自分そして家族を危険にさらす)が皮膚感覚で伝わってくる。

この一夜以降、サム・クックはその後間もなく凶弾に倒れ、マルコムXは暗殺されてしまう。カシアス・クレイはイスラム教に改宗しモハメド・アリとなり、ジム・ブラウンはスポーツ選手から映画スターへと転身する。彼らが4人で集うことは永遠にない。

随所にさしこまれるサム・クックの歌がまた素晴らしい、ロマンチックすぎて笑わせるものもあれば、心が震わせるもの、そしてラストの「A Change Is Gonna Come」には号泣。歌唱はサム・クック演じる俳優兼歌手のレスリー・オドム・Jr。

時代がミッドセンチュリーなので、インテリアデザインも目に嬉しい。特にサム・クックが宿泊する高級ホテルはとってもグラマラス。

製作陣で注目なのは、こちらが初監督作品になる俳優レジーナ・キング、初監督とは思えない見事な手腕。そして原作・脚本は、ピクサー発、異次元なジャズアニメ映画『ソウルフル・ワールド』の脚本を務めたケンプ・パワーズ。

▼レスリー・オドム・Jrのインスタにレジェントたち!

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(2020年製作/114分/アメリカ/原題:One Night in Miami)
監督:レジーナ・キング、原作・脚本:ケンプ・パワーズ(『ソウルフル・ワールド』)、衣装:フランシン・ジェイミソン=タンチャック(『黒い司法 0%からの奇跡』『デトロイト』『オール・アイズ・オン・ミー』)、音楽:テレンス・ブランチャード(『ブラック・クランズマン』『キャデラック・レコード 音楽でアメリカを変えた人々』)、音楽監修:ランドール・ポスター(『WAVES ウェイブス』『ジョーカー』)
出演:キングズリー・ベン=アディル、イーライ・ゴリー、オルティス・ホッジ、レスリー・オドム・Jr
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